くらむせかい

精神虚弱なぼっちヒキニート

事務所

架空の名前で
架空の街で
架空の会社に勤めている
わたしは復職したばかりで
張り切って緊張している
別の会社に
届け物を頼まれる
そこへ行けば
「ソフトモービル」も貰えると言う
「ソフトモービル」ってなんですか?
と聞くと
蛙でもない
チンアナゴでもない
見ていて気持のいい生き物ではない
と言う
そんなの要らない
とわたしは笑う
「それよりあそこに見える犬はなんですか」
と聞くと
「新しい職員の私物」だと言う
それなりに大きな白い犬が事務所の隅で
寝そべっている
お使いの籠の中に入っていた
1枚のチラシを見て
知らないひとが話しかけてくる
「焼き肉を食べるのならうちへぜひ
今日はふたつこたつも出しているよ」
わたしはきょろきょろと辺りを見回す
「あそこに見える店ですか」
「もうすこし先だよ」
「そうですか」
新しいまだ誰も行ったことがないような
焼肉店には行きたくないとおもう
すかさず先輩たちが
「いつもの店は3万円で食べさせてくれるけれど」
と食ってかかる
店長はたじたじとする
「どうすればお客さんを呼び込めますかね」
店長は訊く
わたしは金魚すくいが思い浮かんだ
焼肉を食べたあとにおまけでできる
金魚すくい
ファミリー層を呼び込むのが先だとおもう
会社になんか訪ねてくるより
金魚すくいは難しい
金魚は簡単に死んでしまうから
その金魚を毎日すくえる状態にできるか
店長を試そうとした
でも言葉にはしなかった
それよりもわたしにはお使いがある
復職1日目のわたしに任せるかどうか
議論になっている
わたしは早く気難しい先輩に
「またよろしくお願いしますがんばります」
と言いたくて
タイミングを測りかねている
「わたしが行きます、場所さえ分かればお使い行けます」
だが入場が難しい建物で
切符を貰ってから
エレベーターで別棟へ運ばれ
そこで証明書を貰わなければならないと言う
なぜそんなことがわかるかというと
実はわたしはその建物に行ったことがあった
エレベーターは透明で斜めに進み
建物と建物の間を
わたしたち証明書を必要とする
外部の人間を運んだ
身がすくむ思いがしたのだった
けれど証明書自体は簡単にもらえて
だからわたしはお使いに行くか
話の流れに任せて
お使いは先輩たちに任せるか
悩んでいた
白い犬がボロ雑巾のように寝そべっていて
飼い主の新しい職員は
昨日見たドラマで
知人の障害者をかばって
「正当防衛」を認められず
殺人犯として刑に服する直前
裁判で
知人の障害者が証言台に立ち
「ぼくがやりましたぼくがやりましたお姉さんは殴られていた毎日殴られていたぼくがやりました」
と言って無罪証明をして
無罪証明をされたこと、知人の障害者を殺人犯としてしまったことを
涙を流して受け止める
女優さんと同じひとだった
顔のあざを髪の毛で隠して
すすき色の服を着ていた
なにも言わずに事務所に入ってきて
なにも言わずに働いていた