婚姻の儀
話さなきゃ伝わらない。
ノックしなきゃ振り返らない。
泣き出さなきゃ肌に触れてくれない。
そんな関係はもういやで、わたしはわたしと結婚をする。
わたしは以前働いていた頃に、おおまかな日取りを決めていた。
準備はひとつだけ。
自分のために指輪を買うこと。
高級なものでなくていい。
気に入ったデザインで、指にちょうどはまるやつ。
たぶん世の中のひとたちで、結婚しているひとたちにはなにか共通点があるとおもう。
それがなんなのかうまく伝えられないが、ひとりで生きていく強さというか、いや、ちがうなあ、うーん、ほんとうに、なんともうまく言葉にできない。
ただなにかしらがそこにあって、クリアしたひとばかりが結婚をしているようにおもえるのだ。
わたしもクリアしたひとになろうとおもった。
婚約は春の予定だったが、予定は伸びに伸びて、もう2年くらい先延ばしになっている。
コロナの影響ももちろんあるし、わたし自身の状態が不安定で、持ち直せなくなっているということもある。
いまはまだ下へ下へ、沈み込んでいく様子だが、振り返れば水面に光る指輪が見える。
あ、あの指輪、わたしのだ。
そうつぶやくと、あぶくがもれて、視界が濁る。